玄そばが粉になるまで
畑から出てきた黒い実が、店で打てるそば粉になるまでに、いくつもの工程があります。そのどこで手を抜くかで、届く粉が変わります。
このページでは、茨城製粉が玄そばを受け取ってから出荷するまでに何をしているかを、工程の順にご説明します。
そば屋が、製粉所を始めた理由
茨城製粉は、もともとそば屋から始まりました。
長く世話になっていた地元の製粉所が、廃業しました。代わりを探しましたが、近くにありません。いちばん近いところで土浦か常陸太田。そば粉を挽いてもらうためだけに、片道で何十キロも走ることになりました。
挽きたてを出したい店にとって、これは致命的です。挽いてから店に着くまでに時間が経つ。しかも自分の思うふるいを指定するにも、数量がまとまらなければ相手にしてもらえない。
それなら自分で挽こう、というところから始まりました。
ですから茨城製粉は、粉を売る側の発想ではなく、そばを打つ側の困りごとから出発しています。
「この銘柄を、このふるいで、この量だけ」という細かい注文がどれほど通りにくいかを、自分たちが客の立場で知っています。少量のオーダー製粉を断らないのも、5kgの小分けにこだわるのも、そこから来ています。
工程の全体
- 契約農家から玄そばを直接仕入れる商社や卸を通しません。産地・区画・年産が分かった状態で入ってきます。
- 石抜きをする畑から一緒に入ってきた小石や異物を取り除きます。いちばん最初に済ませます。
- 磨きを重ねる実の表面に付いた土や埃を落とします。一度では落ちきりません。丁寧に複数回かけて、玄そばをきれいな状態にします。
- サイズごとに細かく選別する脱皮の前に、実を大きさで分けます。この工程が丸抜きの出来を決めます。
- サイズごとに脱皮する大きさをそろえた実を、その大きさに合わせた設定で脱皮します。割れが少なく済みます。
- 色彩選別機にかける脱皮しきれなかった実、色の悪い実、異物を完全に取り除きます。ここまでで丸抜きの出荷です。
- 石臼で挽くその日の実に合わせて、挽き方の点を探しながら挽きます。
- ふるいを通すお店のご指定に合わせて、10メッシュから80メッシュまで。
- アルミ袋に脱酸素剤を入れ、真空にする光・酸素・水分の3つを抜いた状態でお届けします。
石抜きと、磨きを重ねること
玄そばは畑から刈り取られて出てきます。実だけがきれいに入っているわけではありません。小石、土のかたまり、茎の切れはし、ほかの草の種が混ざっています。
まず石を抜く
いちばん最初に行うのが石抜きです。実と石は比重が違うので、その差を使って分けます。
これを先にやらないと、あとの工程がすべて危うくなります。石が混じったまま磨けば機械を傷めます。脱皮の機械に石が入れば、刃も実も壊れます。石臼に石が入れば、臼の目が潰れ、粉に石の粉が混じります。口に入るものですから、ここは最初に、確実に済ませます。
磨きは一度では終わらない
石を抜いたら、次は磨きです。実どうしをこすり合わせて、表面に付いた土や埃を落とします。
ここで大事なのは、一度かけただけでは落ちきらないということです。そばの実は三角で角があり、溝もあります。土は一度の摩擦では取れません。
茨城製粉では丁寧に複数回、磨きをかけます。かけるたびに実の表面が変わっていくので、状態を見ながら回数を決めます。玄そばがきれいになった状態にしてから、次の工程へ送ります。
手間は増えます。しかし汚れたまま脱皮すれば、その汚れは丸抜きに残ります。丸抜きに残ったものは、挽けばそのまま粉に入ります。あとの工程で取り返せないので、ここで取りきります。
なお、磨きを済ませた玄そばは「磨き有」としてお届けできます。自家製粉をされる店では、脱皮の前に自店で磨かれる場合もあるため、「磨き無」もご用意しています。
なぜサイズ別に選別してから脱皮するのか
そばの実は、大きさがそろっていません。同じ畑の同じ区画でも、大きい実と小さい実が混ざっています。
脱皮の機械は、実を挟んで殻を割ります。このとき機械の隙間は、ひとつの大きさに合わせるしかありません。大きい実に合わせれば、小さい実は素通りして殻が残ります。小さい実に合わせれば、大きい実は潰れて割れます。
どちらに合わせても、混ざったままではうまくいきません。だから茨城製粉では、脱皮の前に実を細かくサイズ別に分けます。そして大きさごとに、それぞれ機械を合わせて脱皮します。
手間は増えます。そのぶん、割れの少ない丸抜きになります。丸抜きで仕入れて店で挽かれるお客さまにとっては、この違いがそのまま粉の出来に出ます。
色彩選別で、脱皮しきれなかったものを分ける
サイズをそろえて脱皮しても、すべての実がきれいに剥けるわけではありません。殻が残ったもの、半分だけ剥けたもの、未熟で色の悪いもの、殻のかけらが必ず残ります。
これを色彩選別機にかけます。実を一粒ずつ流しながら光に当て、色を見て、基準から外れたものを空気で弾き飛ばす機械です。
茨城製粉では、この工程を「脱皮の仕上げ」として使っています。剥けなかったものをここで完全に分け、剥けた実だけを丸抜きとして残します。色の悪い実と異物も、同時に落ちます。
丸抜きの出荷は、ここまでを済ませたものです。粉にしてしまえば混ざって分からなくなりますが、丸抜きのまま店へお届けするものは、見た目がそのまま品質の印象になります。袋を開けたときに、揃った緑色が並んでいる状態でお届けしたいと考えています。
石臼は、その日の点を探す道具
石臼で挽くと熱が上がりにくく、香りが飛びにくい。これはよく言われることで、実際そのとおりです。
ただ、石臼を使えば自動的によい粉になる、というものではありません。
農家ごと、区画ごとに、実の性質が違います。同じ銘柄でも、その年の天候で水分が違います。同じ日でも、朝と夕方では湿度が違います。石臼の回転や実の落とし方を同じにしていれば、出てくる粉は日によって変わってしまいます。
ですから毎日、挽いた粉を手で触り、香りをかぎ、口に入れて確かめています。手ざわりが思ったより乾いていれば調整する。香りが立っていなければ挽き方を戻す。その日のいちばんよい点を探す作業です。
これは機械が決めてくれることではありません。そば屋として、どういう粉なら打ちやすく、どういう粉ならうまいそばになるかを知っているからできる判断だと思っています。
酸素と水分を抜いて届ける
そば粉は、挽いた瞬間から風味が落ちていきます。落とすのは主に次の4つです。
- 酸素そばに含まれる脂質が空気に触れると酸化します。酸化が進むと、香りが鈍り、えぐみが出てきます。
- 水分そば粉は空気中の水分を吸います。吸えば味が変わり、打つときの加水の手ごたえも変わります。
- 光とくに紫外線が風味を落とします。
- 時間開封してからの時間が、そのまま香りの減りになります。
この4つに対して、茨城製粉は次のようにしています。
アルミの袋で、光を通さない
透明な袋は中身が見えて便利ですが、光を通します。アルミの袋は紫外線を通しません。中身が見えないぶん、風味を守ります。
真空にして、空気と水分を抜く
袋の中の空気を抜いた状態でお届けします。空気を抜けば、酸素も、空気に含まれる水分も、同時に減らせます。
そばが酸化すれば風味は損なわれます。空気中の水分が吸着すれば味が変わります。真空にすることは、そのどちらも同時に遠ざける手です。
脱酸素剤を入れて、残った酸素も取る
真空にしても、粉のあいだには空気がわずかに残ります。そこで脱酸素剤を一緒に封入します。袋の中に残った酸素を吸い取り、無酸素に近い状態を保つためのものです。
真空だけ、あるいは脱酸素剤だけでも効果はありますが、両方を使うことで、開封するまでの酸化をほぼ止められます。そば粉のように脂質を含み、香りが身上のものほど、この差が効きます。
5kgずつに分けて、開ける回数を減らす
20kgを一袋で送れば、こちらの手間は減ります。しかし店では、開けてから使い切るまでに何日もかかります。その間ずっと空気に触れ続けます。
5kgずつに分けておけば、使う分だけ開けて、残りは真空のまま置いておけます。開封した袋の粉だけが時間にさらされ、ほかの袋は届いたときのままです。
この包装は、そば屋だったころに「開けた袋の粉が、日が経つにつれて落ちていく」のを毎日見ていたことから来ています。届いた日がいちばんうまい、というのでは意味がありません。
お店での保存は、直射日光と高温多湿を避け、冷暗所でお願いします。開封した袋はできるだけ早くお使いください。冷蔵庫で保存される場合は、出し入れのたびに結露しないよう、密閉したまま常温に戻してから開けてください。
オーダー製粉について
ふるいは10メッシュから80メッシュまで揃えています。数を多く持っているのは、「こういう粉が欲しい」という相談に応えるためです。
よくあるご相談は、たとえばこういったものです。
- いまの粉が細かすぎる/粗すぎるので、一段変えたい
- 夏と冬で粉を変えたい
- 更科用に一番粉だけ欲しい
- 田舎そば用に、もっと色と香りの出る挽き方にしたい
- 二八でつながりにくいので、挽き方から見直したい
いまお使いの粉と、出したい一枚の姿をお聞かせいただければ、こちらから挽き方をご提案します。言葉で言い表しにくければ、いまの粉を少しお送りいただいても構いません。
まずは1銘柄500gのサンプル(初回は送料無料)で試していただくのが確実です。打ってみてから決めてください。
あわせてご覧ください。
そば粉の用語集 一番粉・挽きぐるみ・メッシュなどの言葉
常陸秋そばと産地のはなし 県北と県西で何が変わるか
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